ユーザーの脳波を読み取って、その意思を効率的に予測し、人工音声で伝える装置。脳の信号で機械を動かすブレイン・マシン・インターフェース(BMI brain-machine interface)の応用技術となる。産業技術総合研究所の長谷川良平ニューロテクノロジー研究グループ長が開発したもので、事故や筋萎縮性側索硬化症などの病気によって、話すことも書くこともできなくなってしまった重度運動障害者の自立支援を目指した成果として、2010年3月29日に発表された。ユーザーは新開発の超小型脳波計を備えたヘッドキャップを装着し、ディスプレーに表示される「飲食する」「移動する」などの日常生活にかかわる8種類の記号的な絵、すなわちピクトグラムの中から自分が伝えたいメッセージに関連したものに注目。このとき、視覚や聴覚への刺激と脳の認知情報処理にともなって0.3秒後に変化を生じるP300誘発脳波を頭皮上から検出し、コンピューターに無線送信する。コンピューターでは、独自に開発した仮想意思決定関数という演算処理法によって、その時間的な成分変化を分析し、ユーザーの意思を短時間かつ高い精度で予測していく。たとえば、ユーザーが「飲食する」のピクトグラムに注意を向けたと判断すると、画面は次の段階に進み、「食べ物」「飲み物」などさらに8種類のピクトグラムを表示。ここで「食べ物」に注意が向いたと判断すると、次いで「和食」「洋食」など8種類のピクトグラムを表示し、最後に「和食」が選ばれたと判断すると、ディスプレーの中に設定したアバター、すなわち自分の分身となるキャラクターが「和食を食べたいです」と発話して、意思の伝達を代行する。こうして、8種類のピクトグラムの中から一つを選んでいくという負担の少ない作業を3回繰り返す階層的メッセージ生成システムによって、8×8×8=512通りのメッセージを効率的に作成できるようにした。価格を10万円以下に抑え、2~3年後の実用化を目標にするという。