ミツバチの幼虫を女王バチへ分化するように誘導するたんぱく質。富山県立大学の鎌倉昌樹講師が発見し、2011年4月25日に発表された。分化(differentiation)とは、ある生物の発生の最中に形や機能が特殊化して、二つ以上の違ったタイプの個体に分かれることをいう。ミツバチ(honey bee)の女王バチ(queen bee)は、同じくメスである働きバチ(worker bee)に比べて体の大きさが1.5倍、寿命が20倍あり、集団の中で唯一産卵能力をもっていて、1日に約2000個の卵を産む。しかし、女王バチと働きバチの間に遺伝的な違いはなく、数あるメスの幼虫のうち、働きバチが分泌するローヤルゼリー(royal jelly)を摂取した幼虫だけが女王バチへと分化していくものの、その仕組みは不明だった。同講師は、摂氏40度で7日間、14日間、21日間、30日間と保存したローヤルゼリーを使って女王バチへの分化に対する影響を調べたところ、30日間保存したものでは、幼虫は働きバチにしかならないことがわかった。そこで、新鮮なローヤルゼリーとの成分の違いを比べてみて、実際に女王バチの分化にかかわっている成分を突き止め、ロイヤラクチンと名付けた。これをショウジョウバエに与えてみたところ、同じように体のサイズや産卵数、寿命を増加させ、種を超えた作用があることもわかった。ロイヤラクチンは、個体の体のサイズや寿命などの制御にかかわる本来の受容体にではなく、ほ乳類の肝臓にあたる脂肪体に存在する上皮増殖因子受容体という組織に作用して活性化シグナルを発し、S6キナーゼという酵素をかかわらせることで細胞のサイズを大きくするという。これらの成果は、今後のミツバチの安定供給やミツバチが突然消え去る「蜂群崩壊症候群(CCD)」の解明にもつながる可能性がある。