現在の時間計測の精度を超える次世代原子時計の有力候補で、東京大学の香取秀俊准教授が2001年に提唱した。原子には、あるエネルギーを受けた際にきわめて規則正しく振動する電磁波を放射する性質があり、その周期を数えて時間を計るのが、原子時計である。1967年以来今日まで、1秒の定義は「セシウム原子が放射する電磁波の周期の91億9263万1770倍」とされているが、この10けたの数字は、昨今では最高で15けたの精度にまで高められている。この精度を実際の時間の流れに当てはめると、数千万年で1秒の誤差しか生じないことに相当する。香取准教授は、原子に特有な、光の強い場所にとどまる性質を利用し、(1)多数のレーザー光を立体的に交差させることで、空間の中に、きわめて微細な「光の立体格子」を10万~100万個かたちづくり、(2)それらの立体格子の一つひとつに、セシウムよりも高い周波数の電磁波を放射するストロンチウム原子を1個ずつ捕獲、(3)多数のストロンチウムから放射される電磁波を平均的に測定することで、誤差を徹底して小さくすることにより、現状の原子時計の2~10倍の精度をもつ光格子時計の動作実験に成功。その成果が08年10月に報じられた。現状の1000倍となる18けたの精度も視野に入っており、実現すれば、100億年に1秒、つまり宇宙が誕生してから現在までで1秒しか狂わない、新しい原子時計が登場することとなる。光格子時計は、06年に国際度量衡委員会による、より高精度な新しい1秒の定義の候補リスト「秒の二次表現」の一つにも採択されている。