物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の山内悠輔独立研究者らが合成法を開発した、通常の8倍以上のセシウム吸着能力をもつプルシアンブルー。プルシアンブルーは紺青(こんじょう)とも呼ばれる安価な人工青色顔料で、ジャングルジムのような結晶構造をもっており、その隙間にセシウムを取り込む性質をもつ。この吸着能力はセシウム137(Cs-137)などの放射性セシウムに対しても有効で、福島第一原子力発電所の事故によって環境にもれだした放射性セシウムを除染・回収するための吸着材として期待がもたれている。しかし、汚染の範囲は広く、効率的なセシウム吸着を実現するためには、プルシアンブルーの粒子全体でみて、できるだけ汚染物に接する面積を増やすこと、つまり表面積を増やすことが必須となる。そこで、粒子を細かくしたり、メソポーラスと呼ばれる2ナノ~50ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)領域の穴をたくさん形成したりする研究が進められてきた。そうした中、同研究者らは、金属材料などの一部をマスキングし、そこ以外を強い酸で腐食させて精密加工を施すエッチング(etching)の手法を取り入れた合成法を考案し、2011年12月19日に発表。(1) プルシアンブルーの粒子を190ナノメートルほどのキューブ状に調整し、(2)酸に強いポリビニルピロリドンを溶かした水溶液の中に分散させて、表面をマスキングしたのち、(3)酸性溶液に浸ける。すると、(4)マスキングによって粒子の表面は保護されつつも、1ナノメートル以下の小さな穴に酸が侵入して、粒子を内部から腐食し、ついには空洞をつくることになる。(5)これを水で洗うと、(6)中空状で、表面にも内側にもメソポーラスをもつプルシアンブルーが合成される。その表面積は、1グラム当たり330平方メートル以上と、市販のプルシアンブルーの10倍以上にもなり、セシウムの吸着能力は8倍以上にも向上したという。