原子番号2のヘリウムの同位体。元素記号で表すときは「3He(3は上付きで表記)」と書く。同位体(isotope)とは、同じ元素であっても、原子核を構成する中性子の数が異なるものをいい、通常のヘリウムが陽子2個と中性子2個で原子核を構成するヘリウム4であるのに対し、ヘリウム3では中性子が1個少ない。ヘリウム3は地球上にはあまり存在しないが、太陽の核融合反応で生成される粒子群の中に存在し、これらの粒子群は宇宙空間に飛ばされるため、一番近いところでは、大気層のようなバリアーをもたない月の表面に豊富に存在している。その量は、月の誕生以来45億年にわたり蓄積し続けており、砂に含まれるイルメナイト(ilmenite)という鉱物に吸着したかたちで2万~60万トンにもなるといわれる。ヘリウム3は、水素の同位体である重水素(デューテリウム)と核融合反応を起こすことが知られており、将来核融合炉の技術が確立され、月に存在するヘリウム3を燃料にできれば、現在の全世界で使われている電力の数千年分に相当するエネルギーを得られると考えられている。一方で、ヘリウム3は絶対零度(-273.15℃)でも気体のままでいると考えられるなど、物性の面でも注目されてきた。東京大学の福山寛教授らのグループは、グラファイト(黒鉛)の表面に二次元的にヘリウム3を閉じ込め、2ミリケルビン(絶対零度から1000分の2℃高い温度)という極低温まで冷却して、その状態を観測。すると、通説に反し、ヘリウム3は気体にとどまるのではなく、非常に密度の低い液体に自己凝縮(液化)するという現象を確認、2012年12月20日に発表した。その密度は、今まで自然界で最も低いとされてきた液体水素の30分の1でしかない。