ブラックホールをともなうX線新星「XTE J1752-223」が、昨今の淡泊化した男性「草食系男子」に通じる性質をもつとして、研究者自身がこれになぞらえて用いた呼び方。X線新星(X-ray nova ; X-ray transient)とは、高温ガス球として存在する恒星などの天体が、突然、X線を放射して強く輝き出した状態をさす。XTE J1752-223は、国際宇宙ステーション(ISS)に設置されている全天X線監視装置MAXI(Monitor of All sky X-ray Image)が2009年10月23日に、いて座にて観測したもので、その後も同装置で調査を継続した。一般に、恒星からのガスはブラックホールに吸い込まれる際、セ氏数億度から数十億度程度まで加熱されて、X線をはじめとする広い帯域の電磁波を大規模に放射する爆発現象を起こす。このアウトバースト(out burst)と呼ばれる現象は、(1)最初は、高エネルギーのX線を放射し、高温で膨らんだガス円盤を形成しながら、(2)その後、ガスの流入量の増加にともなってX線の放射を強くし、やや低温になりながらブラックホール近傍まで薄く広がるガス円盤を形成するもので、このプロセスはガスがなくなるまでの数百日にわたって継続する。XTE J1752-223の状態変化も、アウトバーストが終わるまでの約8カ月間、電波や赤外線を併せて観測され、ブラックホールをともなっていることが確認された。しかし、これまで知られていたブラックホールでは、X線の明るさが10日以内にピークに達するのがふつうであった一方、このXTE J1752-223はピークまで3カ月かかったうえ、本来なら上昇を続けるX線の明るさが、途中で2度ほど横ばいになるという、従来の理論では説明のつかない現象を見せ、新種のブラックホールであると判明。多量のガスを一気に飲み込む従来のブラックホールを「肉食系」とするなら、マイペースで少しずつガスを飲み込むXTE J1752-223は「草食系」であるとし、研究発表者の理化学研究所の三原建弘先任研究員と青山学院大学博士後期課程の中平聡志は、10年9月22日の発表時に、これを「草食系」ブラックホールと呼び、各紙や科学系のサイトなどで広く取り上げられた。