大阪大学の森正樹教授らのチームが開発した、マイクロRNAを用いて作る新たなiPS細胞(人工多能性幹細胞)。2011年5月26日付のアメリカの科学誌「Cell Stem Cell」の電子版で発表したもので、「ミップス細胞」とよむ。人間の細胞は臓器ごとに無数の種類があるが、もとはいろいろな臓器の細胞に変化できる幹細胞(stem cell)が分裂を繰り返しながら分化し、それぞれの役割を担う細胞ができあがっていく。iPS細胞は、3~4種の遺伝子をウイルスを運び役にして皮膚細胞などに導入することで、幹細胞の段階までさかのぼらせたもので、06年に京都大学の山中伸弥教授が開発を発表して以来、世界的な研究競争が繰り広げられている。しかし、再生医療の目的が期待されている半面、導入する遺伝子やウイルスのせいでがん化してしまう問題は依然として解決されておらず、導入する遺伝子の種類や数を変えたり、化学物質を使ったりするなど、さまざまな模索がなされ、その成果は頻繁に発表されている。森教授らのチームはマウスの細胞を調べ、幹細胞だけに存在するマイクロRNA(miRNA ; micro RNA)が60個以上あることに注目。マイクロRNAはわずか20数個の塩基が連なっただけのリボ核酸(RNA)の断片で、たんぱく質の合成を調整する働きがある。そのうちの「mir-200c」「mir-302」「mir-369」という3種を組み合わせ、溶液にして皮膚細胞や脂肪細胞にかけると、20~30日後にiPS細胞とほぼ同じ性質をもつ幹細胞に変化することが確認された。発がんリスクのある遺伝子やウイルスを用いないため、現時点でもっとも安全なiPS細胞を得られる手法ではあるが、生産効率は1%未満と低く、この課題を改善していく余地がある。