産業技術総合研究所の今村亨研究グループ長らが創製し、浅田眞弘主任研究員、放射線医学総合研究所の中山文明主任研究員らとのチームで研究開発した、放射線被曝による障害の予防や治療に効果が見込まれる、新たな細胞増殖因子。細胞の増殖や分化の調節、個体発生の調節、代謝機能の調節など、さまざまな生理機能をになう繊維芽細胞増殖因子(FGF ; fibroblast growth factor)と呼ばれる一群のたんぱく質のうち、FGF1とFGF2の部分部分を組み換えて融合させたFGFキメラたんぱく質がFGFCである。なお、FGFCの「C」はこのキメラ(chimera)に由来する。チームは、3~30マイクログラム(100万分の3~30グラム)の範囲でFGFCを投与したマウスに、24時間後、6000、8000、1万ミリシーベルトという高い線量のX線を照射する実験を実施。6000ミリシーベルトの照射では、生理食塩水だけを投与したマウスは30日後に38%が死亡したのに対して、FGFCを30マイクログラム投与したマウスはすべてが生存したことが、2012年9月3日に発表された。8000ミリシーベルトの照射でも、生理食塩水だけを注射したマウスに比べて、その投与量が多いほど生存日数が増えるという結果が得られたが、1万ミリシーベルトの照射では、意味のある効果は認められなかった。通常、このような高い線量の放射線を浴びると、腸の粘膜上皮細胞を作る幹細胞が死滅し、生命をおびやかすことになるが、FGFCには幹細胞の死滅を防いだり、増殖を促したりする作用があると考えられている。また、被曝線量や投与量、投与時期が特定の範囲内にあれば、被曝後に投与しても効果が発揮されることが確認され、放射線障害に対する予防や治療に有効である可能性が示された。今後は、作用機序の詳細なメカニズムの解明と、最適な投与方法、他の処置との併用などを模索していく方針という。