「人・機械・情報系の複合融合」をコンセプトに掲げ、人の機能の支援、増幅、拡張を目指す新たな研究領域。研究の中核となるサイバネティクス(cybernetics 機械系と生物系に共通する情報処理などを総合して扱う研究)+メカトロニクス(mechatronics)+インフォーメーション(information)に基づく名で、筑波大学の山海嘉之(さんかい・よしゆき)教授が1990年に提唱した。高齢化や障害などにより低下した身体機能を支援したり、力作業を支援したりするための機器を開発しようとするなら、工学だけではなく、神経の信号伝達など人体に関する知見も必要であるほか、社会への適合を考えれば、倫理面や法整備などにも配慮をする必要がある。そのため、ロボット工学などの工学系の研究分野はもちろん、脳神経科学、生理学、行動科学、心理学、法学、倫理学、感性学など、幅広い分野を体系化する必要に迫られる。そうしたサイバニクスの成果の第一弾が、同教授が開発し、ベンチャー企業のサイバーダイン(Cyberdyne)が製造するロボットスーツ「HAL(Hybrid Assistive Limb)」で、人が体を動かす際に脳から筋肉に流れる微弱な信号を皮膚の表面で感知して、動きの意図を読み取りながら、体に装着したフレームをモーターで動かして、装着者の動作を円滑に支援する。現在、福祉用をはじめ、福島第一原子力発電所の事故収束作業のため、被曝を軽減するタングステン製防護服を装備した仕様のものも登場している。さらに、2013年3月からは、神経や筋肉の難病のため歩行が困難な患者のリハビリテーションにも導入され、その効果が検証されることになっている。こうしたロボットスーツを使っての臨床試験は世界で初の試みとなり、国立病院機構新潟病院など全国10病院で順次実施される予定。なお、11年には、サイバニクスの研究拠点として、筑波大学サイバニクス研究センターが設立され、同教授がセンター長を務めている。