光を極限まで細分化していくと、最後には、光子という粒子になる。こうした最小レベルの粒子は、量子とよばれ、「右に回転しながら、左にも回転している」というような、いくつかの奇妙な性質をみせる。この特異性を利用した未来の技術である、量子暗号通信や量子コンピューターを構築するにあたっては、量子を安定して作りだすことが不可欠となる。中でも、単一光子の発生は重要な位置づけにあるが、最小単位の光の粒子を1個ずつ制御することは、あまりにも微細な領域の技術であり、高度な模索が続いてきた。主な方法としては、半導体を使い、マイナスの電荷をもつ電子を閉じ込めつつ、それをプラスの電荷をもつ正孔と衝突させて、光子を発生させる手段がある。しかし、閉じ込める電子の量にばらつきが出てしまい、安定した単一光子の発生が困難だった。2007年9月3日、物質・材料研究機構と筑波大学は、3-5族半導体(元素の周期表における3族と5族を組み合わせた半導体)に含ませる不純物の原子から、安定した単一光子を発生させることに世界で初めて成功したと発表。3族のガリウムと5族のリンによるリン化ガリウムの結晶に窒素原子を混入したとき、この窒素原子がペアを組みながら作る状態が、電子を等しく閉じ込め、安定した単一光子発生を可能とする。3-5族半導体は発光ダイオードやトランジスタなどで使われ、知識や技術が蓄積されているため、実用化へのハードルも低い。