通常用いる水素ではなく、水素の同位体である重水素(デューテリウム deuterium)を使用する新たな燃料電池。重水素とは、通常の水素の原子核が陽子1個だけなのに対して、さらに中性子1個が加わったもので、酸素と結びついた重水という成分として、自然水の中にも0.015%ほど存在している。燃料電池とは、水を電気分解して水素と酸素を得るのと逆の過程をたどる発電装置で、水素と酸素を反応させた際、熱エネルギーとともに光や電気などの形で発生するギブスエネルギー(ギブス自由エネルギー Gibbs [free] energy)から電気エネルギーを得る、新エネルギーシステムの有力な一方式である。火力発電のように、熱エネルギーによる水蒸気でタービンを回すような複雑な構造とプロセスを必要とせず、燃料-電解質-酸素という簡単な構造から効率よく電気エネルギーを得られ、副産物もただの水であるなど利点が多い一方、水素の供給や貯蔵方法、発電性能の向上などの課題もある。2010年5月17日、茨城大学と日本原子力研究開発機構は、これらの課題の改善をはかるべく、重水素を用い、固体の高分子電解質を設けた燃料電池の開発を発表。水素を用いた場合に比べて約4%高い発電特性があることを実証した。この発電に際して重水が発生することになるが、重水素は非常に希少で高価なため、この重水を回収して再度重水素に分解して繰り返し利用できるような循環システムも模索している。重水素燃料電池は、深海のような特殊な環境下で活動し、しかも限られたスペースの中で少しでも高い発電効率が求められる潜水艦などへの搭載が考えられ、海洋研究開発機構とともに海中動力源としての適用可能性を調査していく予定という。