科学技術振興機構(JST)とNTTが開発した、空間中の原子を捕らえる機能をもつチップ素子。2007年6月29日付けの「Physical Review Letters」にて、発表された。金属など、電気を通しやすい物質であっても、実際は、わずかながら電気の流れを妨げ、熱や光に変えてしまう。しかし、極度に低い温度まで冷やすと、100%完全に電気が流れる「超伝導」の状態になる。今回開発されたアトムチップは、サファイアの基板の上にループ状の導体を形作ったもので、全体を-270℃近くまで冷やすことで超伝導状態にして、動作実験に及んだ。このループに、磁場を利用して電流を発生させると、電流は超伝導状態のループの中を永久に流れ続ける。そして、電流は磁場をつくり、空間を漂う原子を捕らえることができるようになる。原子のような極めて小さなものの世界では、量子力学に基づき、あたかも並行世界があるかのような現象が起こる。これを利用して、「現実の自分」と「並行世界の自分」とを絡み合わせながら、課せられた計算ができることになれば、けた違いの並列計算能力をもつ「量子コンピューター」の実現につながる。しかし、量子力学的な性質をもつ原子、光子、電子などの極めて小さな存在は、電源のごくわずかな不安定さや熱などの影響を受けやすく、きちんと捕らえ続けることは非常に難しかった。このアトムチップは、そうした問題を解決しており、量子コンピューターの基礎技術に通じる可能性を秘めている。