生体適合材料で作ったチューブの内側にスポンジ状の層を設け、そこに神経系の細胞を染み込ませて、切断された神経同士をチューブの中でつなぎ合わせるという人工臓器(artificial organ)。末梢神経(peripheral nerve)は単純な切断であれば縫い合わせることができるが、数センチにわたって切断されたようであれば、患者自身の体のどこかから神経を取ってきて移植しなければならない。しかし、長さや太さの条件が整わなければ、つながったとしてもうまく機能が回復しないうえ、切れたままの神経は、特に冬場になると激しい痛みをもたらし、患者を苦しめることになる。そこで、メッシュ(網)を丸めたようなものも含め、チューブの内側にコラーゲンなどでスポンジ状の足場を設け、その両側からそれぞれ切断された神経をさし込み、神経細胞を成長させてつなぎ合わせようという人工神経が開発され、2000年を過ぎたころから臨床試験がはじまった。その後、神経繊維を取り巻くシュワン細胞(Schwann cell)などをスポンジ層に染み込ませた「ハイブリッド型」と呼ばれる人工神経が登場し、より一層の効果を目指して研究が続いている。大阪市立大学の中村博亮(なかむらひろあき)教授と奈良県立医科大学の筏義人(いかだよしと)教授らは、さまざまな細胞に変化できるiPS細胞から作った神経系の細胞をスポンジ層に染み込ませたハイブリッド型人工神経を開発し、後ろ脚の神経が5ミリ切断されているマウスに移植。3カ月後には日常にさしつかえないほど歩行能力が改善したとして、その成果が11年5月10日の全国紙で報じられた。