「氷を作るとき、常温の水よりも温水(熱湯)の方が早く凍る」という、NHKテレビの放送番組「ためしてガッテン」(2008年7月9日放送)で紹介された、従来の経験則に反する特殊な現象。この名称は、1969年に理科の実験中に氷を作ろうとしてこれに気づいたタンザニアの高校生の名前に由来するが、実はすでにアリストテレス、ベーコンやデカルトらも述べている現象である。NHKによれば、番組制作に当たって数回の実験で、同様の結果を得たとしているが、これについて、物理学の立場から熱力学的にはありえないとして、否定的な見解がよせられている。ある一定の条件下においてはムペンバ効果が表れるとされ、その原因として過冷却(supercooling)と呼ばれる現象が関係しているとの見方もある。物質を冷却して凝固点に達しても相の転移(液体→固体となるような現象)が見られない現象を過冷却というが、水が氷になるには、実際には過冷却を経てから凝固が始まる。だが、高温の水(湯)を急速冷却すると、過冷却にはなりにくいために凝固が始まる時間が短い(早く凍る)とするのである。また、一説には「気化熱」が関係しているのではないかとの意見もあるが、いずれにしても、ムペンバ効果はその現象の再現が難しく、実際に起こるにしても、現在のところ科学的には未解明な現象であるとするほかない。