原子の配列が規則的であるにもかかわらず周期性はみられないという、「準周期的」な規則構造をもつ物質。物質が固体の状態にあるとき、通常は、原子が周期的に配列された結晶(crystal)と、ガラスのように原子の配列が乱れたアモルファス(非晶質 amorphous)の二通りの構造しかありえないと考えられてきた。結晶を構成するためには、原子が規則正しい多角形の格子をつくり、その格子が空間を隙間なく埋めつくしながら平行移動もできるようでなければならない。この規則は、正多角形をどれだけ回転させれば元の形と一致するかを考える回転対称性(rotational symmetry)にもとづいて成立することになる。たとえば、正六角形は「6回対称性」つまり、「360度の6分の1」となる60度だけ回転させると元の形と一致する。さらに、120度回転させたときも、180度回転させたときも、360度回転させたときも元の形と一致することになるので、「3回対称性」「2回対称性」「1回対称性」ももつことになり、ハニカム構造で知られるように空間を隙間なく埋めつくすことができる。同様に、正三角形や正方形も加えれば、結晶構造が成立するための回転対称性は、1回(360度)、2回(180度)、3回(120度)、4回(90度)、6回(60度)以外はあり得ない。しかし、1982年、ダニエル・シェヒトマン(ダン・シェヒトマンとも)は、急冷したアルミニウムとマンガンの合金を調べ、「5回対称性(72度)」をもつ物質を発見し、84年に発表。これは正三角形の格子が五つ集まってピラミッドのような角錐を形成しつつ、さらに立体的に組み合わさって正20面体となり、この正20面体が3次元的に規則性をもって配列したものになる。これを一方向から見ると、正三角形の格子五つが作る「角錐の底辺」が正五角形を描き出すため、「5回対称性」を示すことになる。その後、準結晶は、ひし形の格子を単位とした正30面体など、自然界も含めて主に3種類の元素を含む合金の中でいくつか発見され、今日では「第三の固体」として認知されるようになり、「5回」「8回」「10回」「12回」などの回転対称性が示されることがわかっている。また、準結晶は、その特異な構造から熱の伝導性の低さや耐久性の高さを示すため、熱ムラ防止機能としてディーゼルエンジンやフライパンのコーティング材などに、あるいはカミソリや極細の注射針などに活用されている。