さまざまな臓器になることができる万能の細胞を、ES細胞(embryonic stem cell)という。これは幹細胞ともよばれ、再生医療の研究の中心ともいえるものだが、胚、すなわち受精した卵子が一週間ほど卵割を続けたころの状態から取り出す細胞なので、倫理的にも慎重な対応が求められている。また、自分が用意するのが精子であっても卵子であっても、胚の細胞は自分以外の要素を半分もつことになるので、移植後の拒絶反応はまぬがれえない。そこで、患者の体からとった細胞を“初期化”して、万能の幹細胞に“変身”させる、iPS細胞の研究が進んでいる。京都大学の山中伸弥教授と科学技術振興機構(JST)のチームは、ES細胞に含まれる“遺伝子の一部”と同じものを4種類集めて組み合わせ、それをマウスの皮膚からとった細胞に組み込むことで、ES細胞と同様の能力をもつiPS細胞を作りだすことに成功。2007年6月6日の「ネイチャー」オンライン版で、その成果を発表した。06年にも、同チームによる同様の成果が報じられたが、今回はより厳しく質のよい細胞だけを選別することによって、よりES細胞に近づけた、いわば「第2世代iPS細胞」といえる。