免疫機構の一翼を担いながら、アレルギーの原因もつくり出しているマスト細胞(肥満細胞 mast cell)の表面にて発見された分子で、アレルギー反応を抑制する働きをもつ。花粉症やアトピー性皮膚炎、ぜん息などの各種アレルギーは、(1)以前に体内に入ったことのある原因物質、すなわち抗原を「記憶」したIgE(免疫グロブリンE immune globulin E)という抗体が、マスト細胞の表面にあるIgE受容体に結合、(2)後日、新たに同じ種類の抗原が体内に入ったとき、(3)マスト細胞に結合しているIgEがこの抗原をキャッチ、(4)マスト細胞は血管の拡張作用をもつヒスタミン(histamine)などの化学物質を放出するが、(5)これが過剰となって、正常な細胞にまで刺激を与え、炎症をもたらすことで発症する。一般的なアレルギーの治療には、ヒスタミンの作用を抑えたり分解したりする抗ヒスタミン剤(抗ヒスタミン薬 antihistaminics)が用いられるが、症状を軽減することはできるものの、完全な抑制にはいたらない。筑波大学の渋谷彰教授らは、全身に分布するマスト細胞の表面に新たな受容体分子を発見し、それを刺激すると、ヒスタミンなどの化学物質の放出量が半減することを確認。いわばアレルギー抑制受容体(Allergy Inhibitory Receptor-1)であり、その欧文に由来し、一部をつなげてアラジン-1と命名、2010年6月3日に成果を発表した。アラジン-1をもたないマウスを遺伝子操作で作り出し、アレルギー反応を誘導したところ、ふつうのマウスと比べて、より強く激しい症状を起こしたという。このアラジン-1の機能を活性化させる薬剤が開発されれば、アレルギー発症のメカニズムそのものを阻止する、根本的な治療法を確立させられる可能性がある。