東京大学宇宙線研究所の重力波研究グループを中心に、岐阜県飛騨市神岡町の高山地下で建設が進められている大型低温重力波望遠鏡。当初はLCGT(Large-scale Cryogenic Gravitational wave Telescope)と呼ばれていたが、2012年1月28日、建設地の神岡とグラビティー(重力)の組み合わせで、「KAGRA」の愛称が決まった。重力波とは、A.アインシュタインの一般相対論から導き出される波動現象で、質量をもつ物体があれば必然的に時空がゆがめられ、物体が運動して質量が動くと、そのゆがみが光速で伝播するというもの。あらゆるものを突き抜け、減衰することもなく、またその通過時にもたらす時空のゆがみは、たとえば縦方向が伸びると直行する横方向は縮むという関係をもち、重力波の発生源が遠いほど、この伸び縮みの差が大きくなるとされる。しかし、重力波はとても弱く、超新星爆発や中性子星の合体のような巨大な天体現象に由来するものでなければ、現在の機器で検出できるレベルにはならない。さらに、その発生頻度も、7億光年先(1光年は約9兆5000万キロ)の銀河団までを視野に入れたとしても、年に数回しかないという。
重力波望遠鏡とは、(1)レーザー光をプリズムのような装置で二つに分割し、(2)L字型に直行したパイプ状の通路「腕」に導いたうえ、(3)腕の先端に置いた鏡で反射させる構造をとるもの。重力波がこの装置を通過すると、(4)時空はある方向に伸び、それと直行する方向では縮むことになるので、(5)一方のレーザー光は進行距離が長くなり、もう一方は短くなるため、この二つの光の時間差をもとに重力波を検出する。KAGRAの場合、2本の腕はそれぞれ3キロあるが、腕の起点の近くにも鏡を用意してレーザー光を繰り返し反射させ、実質的に70キロほど走らせることで、この時間差をより大きく明確なものにする。とはいえ、非常に微細な現象を検出するため、地面の振動が地上の100分の1ほどしかない鉱山地下を建設場所に選び、熱がもたらすノイズを徹底的に排除するため、鏡には熱伝導の面で効果的なサファイアを使用し、-253℃まで冷やすなど工夫を凝らしている。KAGRAでは、4000億天文単位(1天文単位は約1.496億キロ)もの彼方からやってくる重力波までもキャッチできる性能を目指しているが、それが地球に到達しても、つくりだす時空のゆがみは3キロに対して10の17乗分の1ミリ(10京分の1ミリ)ほどでしかない。