クローン技術(cloning technology クローニングとも)によって作製されたマウスで、ドナーマウス(donor mouse 細胞核などの提供元となるマウス)と同じ遺伝情報をもつ。昨今の哺乳類のクローンは、受精後の胚の細胞を使うのではなく、成体の体細胞から核を取り出し、核を除いた別の個体の卵子に移植して子宮へ戻す方法で作製する体細胞クローン(somatic cell clone)に発展している。この技術は、医療への応用以外にも、同じ遺伝的特徴をもつ動物を大量につくることにつながることから、質の高い家畜の大量生産や絶滅危惧種の保全などに役立てられると考えられている。それを実現するためには、クローン動物から新たなクローン動物を作製する再クローニング(recloning)の技術が必要となるが、再クローニングのたびに出生率が低下し、マウスの場合は6世代が限界だった。その原因は、移植した核の中にある遺伝子の発現が、卵子が受精して胚になる前の遺伝子の発現までさかのぼったものではないことに起因し、この「初期化異常」が再クローニングを重ねるたびに蓄積していくせいだと考えられてきた。理化学研究所の若山照彦チームリーダー(現・山梨大学教授)らと、東京医科歯科大学の幸田尚准教授らのチームは、2005年にトリコスタチンA(TSA ; trichostatin A)という薬剤を用いることで初期化異常を改善できることを発見。1匹のメスのマウスを選び、卵子の周りにある卵丘細胞から取り出した核を使ってクローンを作製し、そのクローンから同様の方法で再クローンを重ねる実験をはじめた。そして、13年3月8日に、その時点で26世代にわたって合計598匹のクローンマウスの誕生に成功していることを発表。同時に、クローン動物に特有の胎盤の巨大化が1世代にはみられたものの、その後26世代まで大きさが変わらなかったことから、初期化異常は再クローンで蓄積していかないことや、クローンマウスの繁殖能力や寿命がふつうのマウスと変わらないことなども明らかにした。