1970年代ころから近い将来起こるであろうとされている、東海地震を予知する鍵となる前兆現象のこと。東海地震は、日本列島がのる大陸側プレートの下に、太平洋側からフィリピン海プレートが沈み込む際のひずみがたまって、陸側が跳ね上がって発生する、プレート(岩板)境界を震源とする地震。前兆すべりとは、その震源域であるプレート境界の強く固着している領域の一部が、地震の発生前にはがれ、ゆっくりと滑り動き始めるとされる現象。1944年の東南海地震では、地震発生の2~3日前から、非常に顕著な前兆的地殻変動が観測された。これと同程度の地殻変動が、東海地震の前兆現象として現れると考えられている。気象庁は、東海地域に高密度に設置したひずみ計による、国内最大の監視網で、前兆すべりをとらえ東海地震の予知が可能としている。しかし逆に、前兆現象を伴わないもの、監視網外に震源域のあるもの、発生メカニズムが異なるものなど、その他一般の地震の予知は困難となる。2009年8月11日早朝に東海地震想定震源域で、マグニチュード6.5の大きな地震があった。しかしこの地震は、フィリピン海プレート内部での断層のずれによるもので、想定する東海地震の発生メカニズムや、ずれの向き、震源の深さ(23km)が違うことなどから、発生の兆しを観測できなかった。政府の地震調査委員会は東海地震との関連性を否定している。地震の発生メカニズムは複雑でいまだ解明されていないことが多く、東海地震でも必ず前兆すべりが起きるとは限らないなど、予知の難しさが改めて注目された。