凸版印刷が京都大学の平岡眞寛教授らの協力を得て開発した、タングステンを混入することで放射線の遮蔽能力をもたせた紙素材。2012年6月7日に発表され、同月中旬からサンプル出荷がはじまった。従来、放射線を扱う医療現場などでは、放射線を遮蔽するために鉛がよく使用されてきたが、低価格で遮蔽能力が高い半面、人体に有害で環境にも影響を及ぼすなど問題もある。そこで、より遮蔽能力が高く、人体や環境への影響がほとんどないタングステンが代替材料として注目されてきた。しかし、金属の中でもっとも融点が高いため、製造時に要するエネルギーが大きいうえ、素材自体の柔軟性が乏しく、加工性も悪い。そこで、同社は紙の中に全重量の8割ほどのタングステンを高密度に充填する技術を開発し、紙という扱いやすい素材にタングステンの遮蔽能力をもたせることに成功した。製品は、幅約500ミリで厚さが0.3ミリのロール状で提供され、ハサミで切ることや折りたたむことができ、フィルムのような他の材料と貼り合わせることもできる。X線に対する遮蔽性能は、そのエネルギーの高低にもよるが、1枚で約50%となり、3枚重ねで鉛0.25ミリ厚と同等、7枚重ねで鉛0.5ミリ厚と同等になるという。医療現場では、放射線検査室や放射線治療室の壁や扉、カーテンなどに使われることが期待されるいっぽう、福島第一原子力発電所事故の収束作業や周辺地域の除染作業での活用が期待されている。この事故の収束にあたる作業員たちが着用する「防護服」は、粉末状の放射性物質を体に直接付着させないためのもので、放射線の遮蔽能力はない。作業員たちの被曝を減らす新たな防護服の製造や、放射能汚染された廃棄物の簡易遮蔽など、応用範囲は広い。