人間は、写真に写された物体であっても、その質感を推定することができる。この能力を質感知覚といい、そのメカニズムを、NTTとマサチューセッツ工科大学が共同で解明し、2007年4月18日の「nature」電子版にて発表した。まず、無数の凹凸がひしめき、複雑な光沢や影をもつ様々な物体を写したモノクロ写真を用意する。こうした写真の画素の一つひとつを、濃淡のレベルごとに分類して、黒から白にいたるまでの間で、同じ濃さの画素がどれだけあるかをまとめた、輝度ヒストグラムというグラフを作る。すると、ヒストグラムは、被写体の光沢感がはっきりしている写真ほど、白の方向へゆがみを生じ、逆に光沢感が少ないほど、黒の方向へゆがみを生じる傾向を見せる。そして実験にて、人間は、ヒストグラムが白の方向へゆがんでいるような写真であるほど、被写体に光沢を感じることがわかった。また、ヒストグラムのゆがみを人工的に加工した写真では、光沢や明るさの感じ方が変わることもわかり、物理的なデータであるヒストグラムのゆがみと人間が感じる質感には相関があると確認された。こうした結果から、質感知覚は、明暗のゆがみという比較的簡単な情報を利用して、脳が低次元の神経メカニズムで単純計算しているものと判明した。