原子番号38番の元素であるストロンチウムの放射性同位体。ウラン235を核分裂させた際に生じる放射性物質の一つとして、核兵器実験や原発事故で放出される代表的な放射性物質の一つでもある。揮発性は低いが、微粒子となって大気中に拡散し、水にも溶けやすく、半減期は約29年。元素記号「90Sr」で扱う場合は“90”を上付きで表記する。ふつう、原子核は陽子と中性子という粒子でつくられていて、原子番号が示す「38」は陽子の数のことであり、ストロンチウムである以上は一定である。しかし、元素には陽子の数は同じだが、中性子の数が異なる同位体というものがあり、中でも放射能をもつものについては放射性同位体という。ストロンチウム90の化学的性質はカルシウムと似ており、飲食物や空気を通じて体内に入ってしまうと、骨に蓄積し、定着してしまう。これが体の中から主にβ線(ベータ線)を放射しつづけるため、白血病や骨のがんにつながる重大な内部被曝(体内被曝)をもたらすことになる。ストロンチウム90は、燃焼したウランの約6%分生成され、原子力安全・保安院の試算によれば、福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故においては、140テラベクレル(1テラ=1兆)が環境に放出されたという。2011年8月、神奈川県横浜市港北区の住人が、自宅マンションの屋上にある堆積(たいせき)物を採取し、同位体研究所(横浜市鶴見区)に検査を依頼。同原発から約250キロも離れているにもかかわらず、堆積物1キロ当たり195ベクレルにもなるストロンチウム90が検出され、同物質初の80キロ圏外検出でもあることから、同年10月に大きく報じられた。