はやぶさ(MUSES-C)は、2003年5月に当時の宇宙科学研究所(現・宇宙航空研究開発機構 JAXA 宇宙科学研究本部)が、遠隔の小惑星からサンプルを採取することを目的に、M-Vロケット5号機によって打ち上げた科学衛星。はやぶさは、地球の重力を利用して速度と方向を変更するスウィングバイ(重力支援ともいう)を行い、05年9月に小惑星イトカワの近辺に到着した。イトカワは、日本のロケットの「父」と称される糸川英夫博士にちなんで命名された、地球と似た軌道を持つ長さ540m幅210mのジャガイモ状の小惑星。はやぶさは、11月に、イトカワへの降下着陸を行い、サンプル採取のためのタッチダウンに成功する、という偉業を達成した。サンプルの採取そのものには失敗したと見られるが、粉じんの採取に成功した可能性が残されている。しかしこの間、化学エンジンから燃料漏れを起こすなど、エンジンの機能回復が不可能となった。はやぶさは、当初07年6月の予定であった地球への帰還を3年間延期、2010年6月を目指すこととし、イトカワと数万キロ離れて併走する、太陽の周りを公転する軌道に入った。そして地球との距離が約5000万kmに縮まる07年4月に、イオンエンジンによる地球帰還へ向けた巡航運転を開始する。たとえ巡航運転が成功しても、帰還への道程は平坦ではない。イオンエンジンと太陽風を利用するという「裏技的」な技術を駆使して、前途多難の途に着くことになる。