魚の生態を調べる目的で魚体に注入する、蛍光素材の標識。生体に適合するシリコーン樹脂「イラストマー」に蛍光色素を混ぜたものを、魚のヒレや頭部などに皮下注射する。これは肉眼でも認識できるが、紫外線を発するブラックライトを使えば発光させることもでき、専用のメガネを併用すれば、さらに鮮明にとらえられる。なお、こうした魚を食べたとしても、人体への影響はないという。従来から、魚の放流効果を追跡調査する際には、ヒレを切り欠いたり、焼き印を付けたり、プラスチック製のタグを装着するなどの方法で「標識」を付けてきたが、多くの追跡対象に施すには効率的でなく、魚体にダメージを与えてしまう問題もあった。対して、この手法は、ごく少量の蛍光素材を皮下の浅い所に注入するだけで済むため、効率的で、魚体へのダメージも少なく、識別精度も高い。2008年3月17日、京都府立海洋センターは、「グジ」と呼ばれる高級魚アカアマダイの漁獲量の減少を受け、この標識を施した稚魚2550匹を京都府本庄沖の水深90mに放流。自走式の水中カメラで22時間追跡し、海底に巣穴を掘る様子や、他の魚介類による捕食の有無などを観察した。一方、アカアマダイを重要な水産物と位置づける山口県も、同年4~5月にかけて、萩市越ヶ浜漁港をはじめ、さまざまな海域で、過去最大となる合計2万3000匹の稚魚の約半分ずつをこの手法と腹ビレを切り欠く方法で放流するという大規模な調査を実施。