ヨウ素(ヨード)を含む製剤。「安定」とは、放射性同位体のように放射線を出しながら別の物質に変わる崩壊を起こさず、存在量がほとんど変わらないことを意味する。内服薬としては、ヨウ化カリウム(Potassium iodine)などの化合物として製剤化する。ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料となるため、ヨウ素の不足による甲状腺機能低下症などの治療に用いられる。また、バセドー病のような甲状腺機能亢進症においても、副作用などで抗甲状腺薬が使えない場合、ヨウ素剤を多めに飲むことで体の制御機能を引き出し、甲状腺分泌を抑えることがある。ほかにも慢性気管支炎やぜんそくに伴う痰の喀出、あるいは第三期梅毒のゴム腫の吸収促進などに処方される。さらに、核実験や原発事故などにより甲状腺がんの原因となる放射性のヨウ素131が大気中に放出される危険性がある時、あらかじめ服用することでこれを予防する効果がある。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災、東北関東大震災)により東京電力福島第一原子力発電所に深刻な事故が発生し、放射性物質が大気中に放出。同施設及び福島第二原発の周辺地域に避難指示が出た。これを受け、厚生労働省は同月15日、福島県内に23万人分のヨウ素剤を確保したことを明らかにした。一方、ネットなどでは恐怖心に付け込み、ヨウ素を含むうがい薬や消毒薬を飲むことなどを勧めるデマ情報や、昆布などの海藻類を食べるとよいといった不確かな情報が広まっている。これに対し独立行政法人放射線医学総合研究所は、ホームページ上で、うがい薬などを服用するとかえって人体に有害な可能性があることや、海藻類に含まれるヨウ素は一定ではなく、十分な効果が得られないことを説明している。