アビー社が開発した、磁場と過冷却を活用する革新的な冷凍技術。過冷却とは、水をゆっくり冷却していった際、ときに-10℃以下になっても氷にならない状態をいうが、わずかな刺激を受けると瞬時に凍り始める。従来、冷凍したマグロなどの生鮮食品は、解凍後に、うまみ成分や栄養素を含んだドリップと呼ばれる液体がにじみ出してしまうせいで、舌触りは悪くなり、うまみは低減し、臭みも強くなる。この問題は、冷凍の際に生鮮食材は外側から冷やされていくため、まず外側の水分が凍り、次第に内側に向かって凍っていくにしたがい、まだ凍っていない部分の水分を引き寄せてしまい、また水は氷になると体積が大きくなることもあり、偏って大きくなった氷が細胞膜を破ってしまうために生じる。対して、CASでは、(1)磁場を生じさせた空間の中に生鮮食材を置くことによって、水の分子、つまり水をかたちづくる最小の単位の一つひとつを振動させることで、水分子をその場に押さえつけ、(2)同時に冷却を進めて食材を過冷却の状態に導いておき、(3)さらに急激に温度を下げる刺激を加えることで、食材全体を均質かつ一気に凍らせる。そのため、冷凍時に生じる水分子の移動や細胞膜の破壊が生じることはなく、冷凍前の鮮度をほぼそのまま保つことができる。この技術の可能性は食材にとどまらず、長期保存が難しい血液や細胞、移殖用臓器などを用いる医療分野でも注目されている。