愛媛大学の地球深部ダイナミクス研究センター(GRC ; Geodynamics Research Center)の入舩徹男(いりふねてつお)教授や住友電工の角谷均(すみやひとし)博士らが開発した、世界でもっとも硬いナノ多結晶ダイヤモンド(NPD ; nano-polycrystalline diamond)。名前の由来は、「硬くて強いダイヤモンド」を意味する“Highly Incompressible and Mechanically Endurable Diamond”をはじめ、研究開発にあたって女性陣の貢献が大きかったことや、愛媛の“媛”からという。従来の人工ダイヤモンド(artificial diamond 人造ダイヤモンド、合成ダイヤモンドともいう)のようにグラファイト(黒鉛)に触媒を加え、超高温・高圧下で再結晶化させるのではなく、ナノサイズのダイヤモンド微粒子を摂氏2300度・15万気圧で20分ほど焼結させて作りだす。天然のダイヤモンドは炭素原子がどの部分の軸も平行になるかたちで立体的に結合し、全体で一つの結晶となっている単結晶(single crystal)であり、自然界の中でもっとも硬いことが知られているが、結晶の構造上、ある方向から強い力を受けると割れてしまう。対して、ヒメダイヤは、単結晶のダイヤモンド微粒子が結合した多結晶(polycrystal)であり、どの方向からも高い強度を示す一方で、こはく色がかって輝きは鈍く、工業用途が中心となる。03年の開発発表時には、直径1ミリメートル、厚さ0.4ミリメートルほどの大きさだったが、09年には世界最大の超高圧合成装置「BOTCHAN-6000」を導入し、より大きなものを合成できるように改良が重ねられてきた。その結果、14カラット(約2.8グラム)に相当する、直径・厚さともに1センチメートルほどのものまで合成できるようになっている。ヒメダイヤがもつ高い硬度や強度、熱を逃がしにくい性質は、地球の深部の状態を再現するような超高温・高圧実験に有効で、地球の核の環境に匹敵する摂氏5000度と360万気圧の再現実験も視野に入れている。