励起状態にある原子の集団がいっせいに蛍光を放出する現象。励起(excitation)とは、原子や分子が電磁波や熱などのエネルギーを受けて、通常よりも高いエネルギー状態になっていることをいう。この状態にある励起原子は、本来の低いエネルギー状態に戻ろうとして、余分なエネルギーを電磁波のかたちで放出することがあり、この電磁波を蛍光という。こうした励起原子が、ある空間の中にたくさん存在しているとき、ふつうならばランダムに蛍光を放ちながら、全体として低いエネルギー状態に戻っていく。しかし、この空間がとても狭く、密度が高くなっているとき、励起原子は集団として足並みをそろえ、いっせいに蛍光を放つことになる。これが超蛍光で、高い密度のヘリウムガスなどにレーザーを照射することで発生させることができる。
2011年10月21日、理化学研究所、日本原子力研究開発機構などのグループは、可視光よりも波長が短くX線よりも波長が長い「極端紫外領域」の自由電子レーザーを使って、通常の蛍光の30億倍も明るい超蛍光の発生を観測したと発表。実験は、兵庫県播磨科学公園都市の大型放射光施設SPring-8(スプリングエイト)に併設されているSCSS(SPring-8 Compact SASE Source〈SASEはself amplified spontaneous emissionの略〉)試験加速器を利用して行われ、波長53.7ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の自由電子レーザーを、ヘリウム原子10億個からなる高濃度ヘリウムガスに照射して超蛍光を発生させた。このような短い波長のレーザーによる超蛍光は世界で初めてとなるが、その本命は、さらに波長の短いX線レーザーで超蛍光X線を発生させることにあり、今回の成果は、同施設で12年3月から始動する予定のX線自由電子レーザー施設SACLA(さくら)で行われる実験へのステップに位置づけられる。超蛍光はレーザーと同じく光の波がそろっていて高い指向性をもつため、超蛍光X線が実現すれば、新しい原理にもとづく光学素子の開発や生体分子構造の解析法などへの応用にもつながっていく。