淡水中に生息するアメーバ(原虫)の一種。日本寄生虫学会による正式和名はフォーラー・ネグレリア。大きさは50分の1ミリ程度で、40℃以上の高温に耐性があり、工場の排水や温泉の中でも生きられる。通常は自然環境中で自由に移動し、細菌などを捕食して生活しているが、まれにヒトの鼻腔から脳へ侵入して原発性アメーバ性髄膜脳炎(primary amebic meningoencephalitis ; PAM)という病気を引き起こす。汚染された湖や川での遊泳などでアメーバが鼻腔に入ると、嗅覚をつかさどる神経をたどって頭蓋内に至り、脳の嗅葉(きゅうよう)や大脳皮質をぐずぐずに破壊してしまう。そのため、脳喰いアメーバとも呼ばれる。発症すると患者は突然の頭痛、発熱、吐き気を訴え、急激に悪化して昏睡やけいれんに陥り、ほぼ10日以内には死亡する。診断が難しいため早期発見しにくく、最適な治療法も不明なので、生き延びられる患者は少ない。健康な若者や小児に患者が多いのも特徴。これまでに世界中で数百例の報告があり、日本でも1996年に佐賀県で初の感染者が確認されている。2012年10月、世界保健機関(WHO)が、パキスタン南部のカラチで原発性アメーバ性髄膜脳炎により10人以上の死者が出たことを公表した。