広島県熊野町で作られる、約170年の歴史を持つ特産品の筆のこと。種類は書筆、画筆、化粧筆、刷毛など多岐にわたり、2006年度の産地概況調査では、毛筆1000万本、画筆1200万本、化粧筆2800万本を生産し、全国シェア1位を占める。1975年に毛筆業界では初となる国の伝統的工芸品の指定を受け、2004年には熊野筆事業協同組合が地域団体商標を取得した。熊野筆を名乗るには、製造技術や製造場所、使用材料たとえば穂首(ほくび)は獣毛、軸素材は竹か木など、細かな決まりがある。熊野筆の歴史は、江戸時代末期、農閑期に出稼ぎに出た農民が帰りに筆を仕入れて行商しながら戻るようになるうちに、自身で筆づくりを始めるようになったのが始まりとされる。明治時代になり学校制度の普及で筆の需要が急増するとともに産業として大きく発展した。第二次世界大戦後、学校での習字教育が廃止された時期には画筆、化粧筆への進出を図るなどして低迷期を乗り越え、今日の繁栄を築いた。近年では化粧筆が品質の良さで有名化粧品メーカーに採用され、ハリウッドのメーキャップアーティストに使われるなど、世界的に高い評価を受けている。11年8月18日にFIFA女子ワールドカップドイツ2011で優勝したなでしこジャパンが国民栄誉賞を受賞した際には、副賞の記念品として熊野筆の化粧筆7本セットが贈呈され、話題となった。