室町時代に栄えて江戸時代初期に衰退した幻の染め物「辻が花染め」を復活させた、染色工芸家、久保田一竹の作品を展示する美術館(山梨県富士河口湖町)。辻が花染めとは、室町時代後半から桃山時代末に栄えた、縫締絞(ぬいしめしぼり)の染色で、後から花や鳥などの描き絵や刺繍、箔(はく)などを加えたもの。名称の由来は諸説あってはっきりとはわかっていない。短い間に流行し、こつ然と消えてしまったため幻の染めと言われる。久保田一竹は、1917年10月7日、東京生まれ。14歳で友禅師に弟子入りし染色を学ぶ。20歳のとき、東京国立博物館で室町時代の「辻が花染め」の小裂(こぎれ)に魅せられ、研究を始める。第二次世界大戦召集、ソ連抑留を経験した後、手描き友禅で生計をたてるかたわら、試行錯誤の末、77年、60歳にして独自に再現した作品を「一竹辻が花」と命名。国内外の数々の賞を受賞するなど、その芸術性が高い評価を得た。90年にフランス芸術文化勲章シュバリエ章を受章。94年に久保田一竹美術館を開館、97年には新館もオープンさせて人気を博していたが、久保田一竹が2003年に85歳で亡くなった後、着物市場の縮小による染め物販売の低調や美術館の償却負担などで資金繰りが悪化。10年3月2日、運営を行っていた会社が民事再生法の適用を申請し、貴重なコレクションの散逸が懸念されていた。しかし、11年7月13日、ロシアの富豪パトック・ショディエフ氏が美術館の全作品104点を一括購入したことが報じられた。現在、経営母体が代わった同美術館で展示されている。