芸術作品を通して、鑑賞者の観察力や思考力などを育てるための方法論。対話型鑑賞教育、対話型美術鑑賞とも言われる。美術史や作品に対する知識にかたよることなく、鑑賞する人同士の対話やコミュニケーションによって美術作品への理解を深めていく。具体的には、ナビゲーター、またはファシリテーターと呼ばれる作品と鑑賞者をつなぐ役割を持つ人の、「この絵のなかになにが見える?」などといった問いかけから対話を重ね、鑑賞者が作品の見方を深めていくというもの。1980年代後半に、ニューヨーク近代美術館(MoMA)がニューヨーク市の公立小学校の教師と児童を対象に、視覚を用いて考えるためのカリキュラム「ヴィジュアル・シンキング・カリキュラム」(visual thinking curriculum;VTC)を開発した。98年、この開発にかかわった同館教育部のアメリア・アレナスの著書「なぜ、これがアートなの?」(淡交社刊)が日本で話題となり、芸術の分野のみならず、学校などの教育の分野に大きな影響を与えた。その後、同じくVTCの開発にかかわった元MoMA教育部長のフィリップ・ヤノウィンがNPO法人Visual Understanding in Education(VUE)を立ち上げ、VTCを「ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー」(visual thinking strategy;VTS)として発展、確立させたと言われている。VTSでは、基本的に「この絵のなかで何が起きている?」「絵のどこからそう思った?」「他に発見はある?」の3つの質問しか使わずに鑑賞を深めていくという手法を採用し、欧米以外にも世界各国の美術館や教育機関で導入されている。なお、日本では、VTCとVTSのどちらも対話型鑑賞と呼ばれている。