マンガ家山岸凉子の短編マンガ。太陽神ポエブス(アポロン)の子パエトーンが、息子である証に太陽神だけが乗ることのできる「日輪の馬車」に乗りたいと父にせがみ、御しきれず暴走させた挙句に主神ゼウスの雷(いかづち)に打たれて死んだというギリシャ神話を下敷きに、原発の是非を問うた問題作。1986年に起きたソ連(当時)のチェルノブイリ原子力発電所の事故に触発され、2年後の88年、「ASUKA」5月号(角川書店)に発表した。作者はこのパエトーンを、原子力を制御できると思いあがった人間に重ねて描き、原発の仕組みや当時の日本の原子力事情などを併せて解説、その危険性などを指摘している。2011年3月11日に起きた東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)に伴う福島第一原子力発電所の事故で、改めて同作がネット上で話題になり、同作を含む作者の選集「山岸凉子スペシャルセレクション」(全10巻)を刊行した潮出版社が、本人にそのことを伝えたところ、「ぜひ無料公開したい」という返事があったため、同月25日から同社ホームページ上で公開を始めた。その冒頭で、作者は福島原発の復旧作業に命がけで従事する人たちに深い敬意を示しつつ、同作を通じ今一度原発の是非を考えてほしいとコメントしている。山岸凉子は、1970年代の少女マンガ界に大きな変革をもたらした女性マンガ家の一群「花の24年組」の主要作家のひとり。これまでに「日出処の天子」で第7回講談社漫画賞(83年)、「舞姫 テレプシコーラ」で第11回手塚治虫文化賞マンガ大賞(2007年)を受賞している。