2008年7月、愛知県名古屋市の東山動植物園で飼育されているオスとメスの2頭のホッキョクグマ(Ursus maritimus)の体毛が緑色に染まり、何度洗っても色が落ちないと、テレビや新聞などで報じられた。動物園の池には藻が生えやすく、一方で、ホッキョクグマの白い体毛は温度を維持するべく空洞構造になっているうえ、透明度をもっているため、この空洞に藻が入り込み、体毛が緑色に染まってしまうと考えられてきた。特に、同年は猛暑が続き、ただでさえ藻の発生や繁殖が盛んになっているところに、原油価格の高騰が重なってしまい、冬場の暖房費確保のために池の水の交換を控えたこともあって、2頭の全身は、まるで抹茶をまぶしたような濃い緑色に染まってしまった。こうした経緯から、この2頭は俗に「ミドリグマ」と呼ばれるようになり、全国的に知られることとなった。同様のケースは国内外の動物園でもまれに見られ、水温が上がって藻の繁殖が盛んになる夏期から体毛の緑色化が始まり、水温が下がる秋期には元通りの白色になるというが、その報告例はわずか数件に過ぎず、岡山理科大学の福田勝洋教授らが半年にわたって調査を行った。そして09年10月、電子顕微鏡を用いた観察によって、この2頭の体毛の表面に、本来は存在しない直径100分の1mmほどの穴が多数あり、そこに藍藻(らんそう)が入り込んで繁殖していることが判明し、全国紙で報じられた。藍藻には、体毛への開穴能力はないため、この能力をもつ微生物が介在し、藍藻と共存している可能性も考えられるという。