能楽を完成させた観阿弥、世阿弥親子を祖とする観世流に伝わる資料を保存、活用するために、1991年に設立された文庫。二十六世観世流宗家観世清和が寄託した能面、能装束、文書類をはじめ、世阿弥直筆本や戦国大名の書簡類など、国の重要文化財を含む約6000点の関連資料を収蔵する。2002年ころから松岡心平東京大学教授らの研究グループが、整理・分類に着手。資料の書誌調査とデジタル画像によるデータベース化を進め、09年10月10日より「観世アーカイブ」として、内外の研究者などに向けてインターネット上で公開されている。観世流や他流の謡本をはじめ、注釈、伝書、学書その他の史料がキーワード検索をはじめ、目録書名、写刊年代、整理番号等で検索できる。観世流にこのような資料が伝わった功労者は、16世紀に現れた駿河十郎大夫と七世観世宗節(そうせつ)の兄弟と、江戸時代中期の十五世観世元章(もとあきら、1722~74)とされる。とりわけ元章は、田安宗武、賀茂真淵ら国学者の協力を得て、謡曲詞章の大改訂を試みたことで知られる。2010年8月16日付の読売新聞朝刊が、この元章の編纂(へんさん)になると思われる「装束古裂帳(しょうぞくこぎれちょう)」が見つかったことを報じた。縦約37cm、横約30cmの厚手和紙12枚をつなげた表裏24面から成る折帖(おりじょう)に、85点の端切れが張られ、それぞれに衣装の持ち主の名、素材、模様、色などの添え書きがある。能装束の参考にしたと見られるが、桜町上皇、家仁親王、近衛内前、二条宗基らの名も見え、元章の交流の広さや研究熱心さなどがしのばれる貴重な資料といえる。