古筆とは、平安から鎌倉期に筆で書かれた書や写本のうち、文様を刷り込んだり、顔料や金銀箔などで装飾を施した美しい料紙に書かれたかな書きの多い歌集などの名品を指す。一般には冊子や巻物の体裁を採るが、室町時代以降茶の湯の隆盛などもあり、すぐれた書は茶室の掛物(かけもの)などとしてしばしば分断され、断簡となった。これらを「古筆切(こひつぎれ)」と呼ぶ。その多くは掛軸などに表装されたが、江戸時代に入ると、整理保存や鑑賞の便を図るため、古筆切やその写しを数百枚も集め、美しい台紙に貼り並べてひと続きの折本(おりほん)に装丁した「帖(じょう)」に仕立てる風潮が興ってくる。これを「古筆手鑑」と呼ぶ。「手」は筆跡、「鑑」は手本の意。とりわけ「古筆家」と呼ばれる当時の鑑定家が、書の真贋を鑑定するための見本帳としたものには名品が多く、現在国宝に指定されている出光美術館蔵の「見努世友(みぬよのとも)」、京都国立博物館蔵の「藻塩草(もしおぐさ)」、陽明文庫蔵の「大手鑑(おおてかがみ)」、MOA美術館蔵の「翰墨城(かんぼくじょう)」の4件のうち、五摂家の近衛家に伝わった「大手鑑」を除く3件は、いずれも古筆家の家に伝わったものとされる。2012年2月25日~3月25日、東京・丸の内にある出光美術館の「古筆手鑑―国宝『見努世友』と『藻塩草』」展で、そのうち2件が初めて顔をそろえる。12年春は、ほかにもMOA美術館の「国宝 紅白梅図屏風 所蔵名品展[絵画・書跡]」(1月27日~3月2日)で「翰墨城」が、京都国立博物館の「王朝文化の華―陽明文庫名宝展―」で「大手鑑」が出展される。