室町時代の能役者、世阿弥(1363~1443?)作の能。世阿弥は、能楽界の筆頭である観世家の始祖で猿楽能の完成者である観阿弥の子。父の死後、観世座の名跡を引き継ぎ、能楽を大成した。現行の能の演目の多くは世阿弥作と言われる。「阿古屋松」は、理由はわからないが、観世流宗家に伝わる世阿弥の自筆脚本11作品の中で唯一上演記録がない。2013年が世阿弥の生誕650年に当たることから、1427年(応永34)作とされる自筆脚本を基に謡の節や舞の型を一から付け加えて復曲し、2012年4月27、29日、国立能楽堂(東京都渋谷区)において約580年ぶりに上演した。内容は、平安時代、歌人の藤原実方が、赴任した陸奥国の山中で出会ったきこりの老人に、有名な歌枕である阿古屋松について尋ねる。老人の正体は塩竈(しおがま)明神で、松のめでたさを祝い、舞を披露するというもの。主役のシテ(前半は老人、後半は塩竈明神)を観世流の家元、観世清和が演じた。阿古屋松は、山形市千歳山にある萬松寺(ばんしょうじ)の阿古耶松が題材とされている。