現生人類(ホモ・サピエンス)が発祥の地であるアフリカを離れ、世界中に広まるきっかけとなった移動。現生人類の「アフリカ単一起源説」の前提となる。現生人類は20万年ほど前にアフリカ東部で誕生し、ナイル川流域からシナイ半島を通ってアラビア半島に出ると、東地中海からヨーロッパ方面に向かった北ルートと、アラビア半島沿岸を南下してインド、東南アジア方面に至る南ルートの二手に分かれて世界中に広まったと考えられてきた。これまでアラビア半島進出は6万年ほど前とされてきたが、イギリスのロンドン大学など5カ国による国際研究チームが、アラブ首長国連邦のジェベル・ファヤ遺跡から12万5000年前の石器を発見したと、2011年1月28日付のアメリカ科学誌「サイエンス」電子版に発表。同チームによれば、同遺跡はホルムズ海峡に近いアラビア半島東部にありながら、石器の特徴はアフリカ北東部で見つかったものに近く、この時期すでに人類は同地に進出していたとの結論に達した。当時は気候変動により海の水位が低かったため、紅海とアラビア海を隔てるバブ・エル・マンデブ海峡を直接渡ったのではないかという。人類の歴史の中で「出アフリカ」は何度か行われており、180万年前ごろに現れた原人(ホモ・エレクトス)は、アジア方面に進出してジャワ原人や北京原人、ヨーロッパ方面ではハイデルベルク人になったことが知られている。これを元に、かつてはこれらの原人がそれぞれの地域で現代人にまで進化したとする「多地域進化説」を唱える研究者もいたが、現在ではほぼ否定されている。