人工的でプラスチックのようにさまざまに形と色を変えて現れ、意味ありげで内容は空疎だが時代に流通している言葉のこと。ドイツの作家で元フライブルク大学教授(言語学・古典文学)のウヴェ・ペルクセン(Uwe Poerksen)による造語。あらゆる組み合わせが可能で、主義主張が異なるいずれの政治勢力でも簡単に使えて、日常語のマスターキーとなっているような言葉の群れをさす。彼によれば、現代の支配的な言語表現は「アイデンティティー」「発展」「近代化」「コミュニケーション」「エネルギー」「インフォメーション」などせいぜい30個程度の、少数の語彙(ごい)が言語のピラミッドの頂点に立って世界を動かしているという。それらを適宜に寄せ集めて並べるだけで変幻自在に使われ、聴取者には何の疑問も持たれず、主義主張を超えて通用する。最近では「イノベーション」「グローバリゼーション」「Web2.0」「ガバナンス」「マニフェスト」などがその例に挙げられるだろう。とりわけ日本では、外国語でも翻訳不要のままカタカナ化された言葉が、実態をともなわず何か意味ありげに一人歩きする危うさがある。ひところ「お役所言葉」として使われていた「アーカイブ」「アウトソーシング」「イニシアチブ」「アジェンダ」を、単に日本語に言い換えるだけで「保存記録」「外部調達」「主導、発議」「検討課題」と、用語の実態が明らかにされた例からもうかがわれる。プラスチックワードと同じような言葉で、「専門的に聞こえるが意味不明のまま世間に通用している言葉」としてバズワード(buzzword)がある。buzzは「ブザー音、ざわめきの」意味。(『プラスチック・ワード』英訳版1995年、ドイツ語版原著88年、日本語訳は藤原書店刊2007年)