明治から昭和中期にかけて全盛期を誇った福岡県北東部の筑豊炭田で、50年にわたり炭坑労働者を務めた山本作兵衛(1892~1984年)が残した1000点を超す炭坑の記録画。2011年5月25日、国連教育科学文化機関(UNESCO ユネスコ)は、福岡県田川市や福岡県立大学などが所有・保管する作兵衛の炭坑絵及び日記など、計697点の記録を「Memory of the World(メモリー・オブ・ザ・ワールド)」、通称・世界記憶遺産に登録することを発表。記憶遺産への日本からの登録はこれが初。田川市では当初、世界文化遺産登録を目指す「九州・山口の近代化産業遺産群」の一部として、市内に残る旧三井田川鉱業所伊田坑の煙突や竪坑櫓(たてこうやぐら)などを推していたが、09年10月、国内選考で外されることとなった。しかしその際、海外の専門委員たちから作兵衛の記録画が高く評価されたことをきっかけに、目標を世界記憶遺産へと変更。関連資料とともに10年3月、ユネスコに登録申請した。作兵衛は退職後、当時の記憶を子孫に伝えようと絵筆をとり、我流の墨画や水彩画で坑内の様子や炭坑夫たちの生活を、克明な解説文とともに生き生きと描いた。「世界記憶遺産」には、これまでに「マグナ・カルタ(大憲章)」「グーテンベルクの42行聖書」「フランス人権宣言」などが登録されている。今回の登録により、国を飛び越えて自治体が申請した日本の一労働者の個人的記録が、これらと肩を並べることとなった。