約1300年の歴史を誇り、1998年には世界遺産にも登録された奈良県薬師寺の伽藍(がらん)の一つで、西塔と一対をなす三重塔。2012年6月4日、1900年(明治33)以来約110年ぶりの解体修理が本格的に始まり、塔を覆う工事用の「素屋根(すやね)」の最上階で、最上部を飾る「相輪(そうりん)」の一部を外す「宝珠降臨法要(ほうじゅこうりんほうよう)」が営まれ、山田法胤(ほういん)管主をはじめ寺の関係者や、解体修理を担当する県教育委員会関係者ら約150人が、工事の無事を祈った。薬師寺は、白鳳時代の680年に、天武天皇が建立を発願。妻の持統天皇及び孫の文武天皇がその遺志を受け継ぎ、698年、藤原京(奈良県橿原市)で創建された。その後平城遷都に伴い、718年(養老2)、現在の地に移転。東塔はこの時移築されたものとも、730年(天平2)、新たに造営されたものともいう。度重なる災害や1528年(享禄元)の兵火などでほとんどが焼失した同寺にあって、唯一創建当時の姿を今に伝える建造物であり、1951年、国宝に指定されている。高さは約34メートル。一見すると六重に見えるが、各層に裳階(もこし)と呼ばれる装飾屋根を備えるためで、正しくは三重塔。明治の日本美術復興を指導したアーネスト・フェノロサは、これらの屋根の重なりが織りなす律動的な美しさを、「凍れる音楽」とたたえたという。しかし、長い歳月のうちに、塔の中心を貫く心柱(しんばしら)が空洞化するなど、風雨やシロアリなどによる傷みが激しく、1世紀ぶりの解体修理を行うこととなった。今後約2年かけて解体し、修理完了は2018年度の予定。