照明に蝋燭(ろうそく)を用いて演じられる能。夜間の能舞台は、もともと室町時代から蝋燭の明かりで演じられてきたが、近年屋外で篝火(かがりび)をたいて行われる薪能(たきぎのう)が人気となり、これに類する舞台づくりとして再評価されるようになってきた。蝋燭の配置等に特に決まりはなく、脚付きの燭台で舞台や橋掛かりを囲んだり、舞台上に低く配して役者を足元から照らしたりと、演目や演出によって、十数本から数百本までさまざまな形で使われる。また、電気照明は完全に消すことも、絞って併用することもある。蝋燭に照らされた面や衣装は、独特の陰影を帯び、能が生まれた当初の幽玄を再現する新たな演出手法と捉える人たちもいる。シテ方五流(観世、金春、宝生、金剛、喜多)のほか、山形県の国重要無形民俗文化財、黒川能などでも演じられている。地方のイベントホールや寺社境内等の特設会場で行われることも多く、薪能同様形式張らない入門編として、初心者にも人気が高い。東京都台東区では、1980年より浅草寺境内で「台東薪能」を開催してきたが、2009年に本堂工事のため浅草公会堂に舞台を移し、以後「台東蝋燭能」として現在に至っている。12年8月7日には第33回が行われ、能「巻絹」(観世流)、狂言「仏師」(大蔵流)に続いて、蝋燭能「船辨慶」(観世流)が演じられた。