安土桃山時代(1573~98年)から茶道具の名器と挙げられながら、その後、世に出ることがなく「幻の名品」とされていた、陶器の茶入(ちゃいれ)。2007年に、徳川美術館(名古屋市東区)が所有者から委託を受けて鑑定し、付属品一式とともに、秋野文琳(ぶんりん)と確認した。抹茶、とくに濃茶(こいちゃ)を入れる茶入は陶器が多く、形によって肩衝(かたつき。肩が張ったように角張っている)、ナスビ形の茄子、リンゴに似た形の文琳(リンゴの異名)などと呼ばれる。付属の書き付けなどによれば、秋野文琳は、高さ約7cm、胴径約6cm、口径約2.8cmの、中国伝来の唐物(からもの)茶入で、中国南部の窯(かま)で作られ、13~14世紀ころ、日本に渡来したとみられる。千利休の弟子、日野輝資(1555~1623年)、幕府老中の阿部豊後守忠秋(1602~75年)などを経て、紀州徳川家に伝えられたこともわかった。4世紀もの長い間、「存滅不明」とされてきた名茶器が発見されるのは、きわめて珍しいこと。