和歌山県那智勝浦町に伝わる民俗芸能。熊野那智大社で毎年7月14日に行われる例大祭「那智の火祭」で演じられるもので、伝承によれば応永年間(1394~1428年)に京都の田楽法師が伝えたとされ、1976年、国の重要無形民俗文化財に指定されている。2012年12月6日、文化庁はパリで行われている国連教育科学文化機関(ユネスコ)の政府間委員会で、「那智の田楽」の無形文化遺産登録が承認されたと発表した。「那智の火祭」は、扇祭または扇会式(おうぎえしき)とも呼ばれ、同大社に祀(まつ)られた12柱の神々が、年1度高さ約6メートルの扇神輿(みこし)に乗って那智の滝に里帰りするという神事で、神輿の出御に先立ち、豊作を祈念して大和舞、田楽舞、田植舞が奉納される。このうち田楽舞は、締太鼓や木片を連ねた打楽器ビンザサラ、シテテン(鼓)を、笛の音に合わせて打ち鳴らしながら、11人の演者がさまざまに陣形を変えて舞い踊るのが特徴で、「乱声(らんじょう)」「鋸歯(のこぎりば)」「八拍子」など、約20曲の演目が伝えられている。11月に行われたユネスコの事前審査では、文化的意義や社会的位置づけなどの情報不足が指摘され、登録の見送りを勧告されていた。しかし、政府間委員会では、日本の提案書で説明はなされているとの意見が相次ぎ、一転して登録決定に至った。日本からの登録は、「人類の口承及び無形遺産に関する傑作」に宣言された能楽、人形浄瑠璃文楽、歌舞伎をはじめ京都祇園祭の山鉾行事、沖縄県の組踊(くみおどり)、島根県の佐陀神能などに続き、21件目。