2009年10月8日、スウェーデン・アカデミーは同年のノーベル文学賞を、ルーマニア出身でドイツの女性作家ヘルタ・ミュラー(56歳)に授与すると発表した。授賞理由を「韻文の濃密さと散文の率直さをもって疎外された人びとの風景を描き出している」としている。ミュラー氏は、1953年に当時共産圏のルーマニアのドイツ語圏バナト地域で生まれ、ティミショアラ大学でルーマニアおよびドイツ文学を学び、卒業後は機械工場で通訳として勤務した。チャウシェスク独裁政権下で秘密警察への協力を拒んで解雇される。82年に発表した「どん底(低地)」で西側ドイツ語圏諸国で注目を集めたものの、84年には就業と作品の発表を禁じられたため、87年に西ドイツに移住して作品を発表してきた。代表作は独裁政権崩壊時のルーマニアを舞台を描いた「狙われたキツネ」(92年)で、2000年に日本語にも翻訳されている。ノーベル賞5部門のうち物理学賞と化学賞と経済学賞はスウェーデン王立科学アカデミーが、医学・生理学賞はストックホルムのカロリンスカ医学研究所が選考にあたるが、文学賞はスウェーデン、フランス、スペインの3アカデミーが選考にあたる。