1953年に松竹で公開された小津安二郎監督の映画。「晩春」「麦秋」に続き、原節子演じる「紀子」を描く「紀子3部作」の第3作目に当たる。独特の低いカメラ位置や人物の切り返し、計算しつくされた構図、繊細で抑えた演出などで世界的に評価の高い小津作品の中でも、最高傑作とされることが多い。2012年8月2日、イギリス映画協会(British Film Institute ; BFI)発行の「サイト・アンド・サウンド(Sight & Sound)」誌で、世界の監督358人の投票による「最も優れた映画50」で、「東京物語」が1位に選ばれた。また、846人の批評家が選ぶ批評家投票部門でも、同作は第3位になっている。このランキングは、同誌が1952年から10年ごとに発表しているもので、当初批評家投票部門だけだったが、92年から監督投票部門も始まっている。同誌の選評によれば、投票者の一人ジェームズ・ベルは、「(小津は)その技術を完璧の域にまで高め、家族と時間と、そして喪失についての真に普遍的な映画を作り上げた」と評している。英語圏以外の作品が1位を得るのは、第1回のヴィットリオ・デ・シーカ監督によるイタリア映画「自転車泥棒」以来60年ぶり。なお、第2回(62年)以来1位の座を独占してきたオーソン・ウェルズ監督の「市民ケーン」(41年)は、今回監督投票部門ではスタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」(68年)と並んで2位、批評家投票部門でも、アルフレッド・ヒチコック監督の「めまい」(58年)に抜かれ、2位という結果になった。