渾儀ともいう。古代から中国や日本で、天体の位置や運行を観測するのに使った天文観測機器。すでに前漢時代(前2世紀ごろ)から使用されていたという。作りは時代によって異なるが、一般に三重構造となっている。例えば唐代に李淳風が作ったものは、子午環・地平環・赤道環からなる外層の六合儀(りくごうぎ)、4個の円環が南北極を軸に回転する中層の三辰儀(さんしんぎ)、そして南北軸上を回転する双環とその中で南北に動く望筒からなる内層の四遊儀(しゆうぎ)で構成されている。今日のプラネタリウムのような機器で、宇宙が球状構造であるという宇宙論「渾天説」に従っている。観測のほかに、天空の模型として説明に使用された。渾天儀は、江戸時代の天文学者安井算哲(のちの渋川春海 1639-1715)の生涯を描いた映画「天地明察」(2012年9月15日公開 原作・冲方丁 監督・滝田洋二郎 主演・岡田准一)にも登場する。世界文化遺産の日光東照宮が所蔵する渾天儀は、安井算哲設計の現存する唯一のもので1675年に作成された。安井算哲は幕府の命を受け改暦事業に取り組み、渾天儀を活用し日本で初の暦「貞享暦(じょうきょうれき)」(1684年施行)を作成した。