啓蒙的な内容の仮名草子(かなぞうし)に代わって、特に上方(かみがた)で流行した娯楽性を重視した風俗小説。天和2年(1682)、井原西鶴(いはらさいかく)が、『好色一代男(こうしょくいちだいおとこ)』を大坂で刊行したことが、始まりとされる。これは、主人公・世之介の数々の恋模様を描いた一代記で、貞享元年(1684)に出された江戸版(菱川師宣[ひしかわもろのぶ]の挿し絵入り)をはじめ、版を重ねて、ベストセラーになった。続いて、貞享3年(1686)には、『好色五人女』『好色一代女』を出版して、西鶴は流行作家としての地位を確立した。このため、出版界においては、西鶴を模倣した好色本が次々と出版され、好色本全盛の時代となった。西鶴は、元禄元年(1688)正月には、初めての町人物『日本永代蔵(にっぽんえいたいぐら)』を刊行し、当時の新興商人の姿をいきいきと描き出し、武家物では『武家義理物語』、雑話物では『西鶴諸国ばなし』などを書いた。西鶴の武家物は、義理に苦しむ武家の姿を描いて町人の優位を示したようにいわれるが、逆に数少なくなった武士らしい武士への追憶と見ることもできる。
武士(ぶし)
平安時代(794〜12世紀末)後期に生まれた、戦いを任務とする者。鎌倉時代以降、武士が政権を握ったため、支配階級として政治をも担当することになった。