浮世草子に代わって登場した、中国小説の影響を受けた長編小説。絵を主体とする「絵本」に対して、「読本」といわれる。前期と後期にわけられ、上方(かみがた)で18世紀中ごろから盛んになったものを前期読本という。代表的な作品に、安永5年(1776)刊行の上田秋成(うえだあきなり)『雨月物語(うげつものがたり)』がある。対する後期読本は、寛政11年(1799)に刊行された山東京伝(さんとうきょうでん)の『忠臣水滸伝(ちゅうしんすいこでん)』に始まる。中でも、江戸を中心として流行したものを「江戸読本」という。京伝門下の滝沢馬琴(たきざわばきん。曲亭馬琴[きょくていばきん])により28年かけて完成した『南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん)』(98巻106冊)は、当時の大ベストセラーである。仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八つの珠をもつ犬士たちの織りなす壮大な物語は、晩年、視力を失いながらも、息子の嫁・お路の口述筆記に支えられて完成した馬琴渾身の作品である。馬琴は、原稿料のみで生活した最初の作家ともいわれ、その筆耕料(ひっこうりょう。原稿料)は1冊あたり金2~5両ほど、年間収入は35~40両ほどになった。
浮世草子(うきよぞうし)
啓蒙的な仮名草子に代わって、特に上方で流行した娯楽性を重視した風俗小説。